採用面接官は「会社の未来を創る」プロフェッショナルたれ

採用面接のミッションは、一言でいえば「候補者にファンになってもらいながら、候補者の評価をすること」です。そして、その候補者が持つ影響力にも配慮すること。

私たちは、採用面接を「候補者の評価」「広報」「候補者に意欲を固めてもらうこと」の3つの柱で構成されるべきだと考えます。


1. 候補者の評価:再現性の深掘り

候補者の評価は、単にスキルや経験の有無を確認するだけではありません。重要なのは、そのスキルや経験が当社の環境で「再現可能か」を見極めることです。

まずは面接官の自己開示から

いきなり評価の質問に入るのではなく、まずは面接官の自己開示から始めることを強く推奨します。ジョハリの窓の理論ではありませんが、面接官が簡潔で分かりやすく、人間味のある自己開示をすることで、候補者は安心して本音を話しやすくなります。決して鼻にかけず、かといって謙虚すぎない、フラットな自己開示を心がけましょう。

マインドと本気度の見極め

転職理由や志望理由、自己PRといったお決まりの質問をストレートに聞いても、候補者は準備された「よそ行き」のメッセージを話すだけです。例えば、転職理由を「前職を辞めたのはなぜですか?」と聞くのは効果的ではありません。

本当に知りたいのは、候補者がどのような環境で、どのような仕事をし、どんな成功や失敗があり、何が課題・目的で、現在の状況に至っているのか、という一連のストーリーです。このストーリーを順序立てて聞くことで、候補者が決断に至った論理や、語られる内容の整合性が見えてきます。

【具体的な質問例】

  • 「〇〇さんは前職で営業成績を120%達成し、社長賞も獲得されたと伺っています。素晴らしい実績ですね。そこまでご活躍されながら、なぜ新たな環境をお探しになろうと思われたのですか?」

このように実績を褒めつつ質問を投げかけると、候補者は「まさかここまで掘り下げられるとは」と驚き、これまで語ってこなかった本音がぽろっと漏れ出てくることがあります。例えば、「実は、成果を上げても評価体系が変わらず、もっと裁量を持ってビジネスを動かしたいという想いが強くなりました」といった具体的な理由が引き出せるかもしれません。

志望理由も同様に、転職を決意した背景と、その打ち手として当社を志望する理由がどのように結びついているのかを、自然な会話の流れで確認することが肝要です。

【具体的な質問例】

  • 「〇〇さんが転職を決断された背景には、どのような状況がありましたか?そして、その状況を解決する上で、当社のどのような点に魅力を感じていただけたのでしょうか?」

このように、転職の背景から志望理由へとスムーズに話を繋げることで、候補者の志望度が単なる一般的な動機付けではなく、具体的な課題解決への意欲に基づいているかを確認できます。複数の企業を検討しているのは当然のことですから、一連の会話の中での整合性が、真の本気度を見極める重要な手がかりとなるのです。

応募職種の「再現性」確認

次に、応募職種の業務が当社で「できるかどうか」、つまり「再現性」の確認です。求められるスキルが複数ある場合、まずはクローズドな質問で経験の有無を確認します。経験がある場合は、さらにオープンな質問で、どのような環境で、どんな課題に対して、どう頭を使って行動し、どのような結果を出してきたのかを深掘りします。ここが面接官の質問力の見せ所です。

スキルの再現性を確認するためには、ロールプレイが非常に有効です。ただし、決して圧迫的な雰囲気にならないように、あくまで「事(課題)」に焦点を当て、和やかな対話形式で進めることが重要です。

【ロールプレイの具体例】

  • 「今、弊社で〇〇プロジェクトが予定より遅延しており、顧客への納期に間に合わない可能性が出てきています。このような状況で、もし〇〇さんなら、どのように状況を打開し、プロジェクトを成功に導きますか?具体的な改善策と、取るべき行動について、いくつか提案いただけますか?」
  • 「クライアントから提示されたコンサルティング費用の見積もりが、当初の想定よりも大幅にオーバーしそうな状況です。このような場合、どのようにクライアントとコミュニケーションを取り、納得して費用を支払っていただくための提案をされますか?」

このように、自社で起こりがちな具体的な課題を提示し、候補者が即興でどのように考え、行動するかを提案してもらうことで、その思考プロセスや問題解決能力、そしてコミュニケーション能力を評価できます。面接官は、耳と頭と心を候補者の言葉に集中させ、再現性を確認しましょう。

「Fact」と「Will」の区別

時折、「〇〇の経験はありますか?」という事実確認の質問に対して、「ぜひやってみたいと思います!」という意志(Will)で回答する候補者がいます。このような軽快なコミュニケーションのキャッチボールに騙されてしまう面接官もいますが、ファクト確認に対するWillの回答には注意が必要です。テンポの良いやり取りの中で、事実と意欲を混同していないか、冷静に見極める必要があります。

未経験の業務については、単に経験がないで終わらせず、今後どのように学び、現在の経験をベースにどのように取り組むかまで確認することが面接官の重要な役割です。

強み・アピールポイントの確認

候補者の強みやアピールポイントの確認も重要ですが、これも一方的な「演説」にさせてはいけません。これまでの転職理由、志望動機、経験・スキル確認といった一連の流れの中で、自然な対話として確認しましょう。前職でその強みをどのように生かしてきたのか、そして当社の志望動機とどのように結びついているのか。転職理由、志望動機、自己PRの要所には、共通の「整合性」がなければなりません。

ポテンシャルの見極め:成長できる人材か?

必要なスキル(MUST)も歓迎スキル(WANT)も全て経験済みの候補者は存在しません。ある程度の部分は、候補者の「ポテンシャル」を評価する必要があります。つまり、成長できる人間かどうかを見抜くことです。

未経験の業務について「取り組みます」と答える候補者は多いですが、それが本心であり、本当に実現可能かを見極めることが重要です。ここでは、過去に未経験の業務に取り組んだエピソードを確認しましょう。どんな状況で、どんなスキルが不足し、どう行動したか、そしてどんな結果が起きたかまで。必ずしも成功体験である必要はありません。重要なのは、結果よりも「その取り組みへのプロセス」です。何を感じ、どんな行動をとったのか、そこに成長のヒントが隠されています。


2. 広報:好印象を残す会社の顔

面接官は、会社の「顔」です。候補者に好印象を与え、会社の魅力を最大限に伝える「広報」の役割も担っています。

面接官自身の印象管理

  • 仕事ができる印象:質問の意図が明確で、深掘りの仕方が論理的であること。
  • 明るく、気持ちの良いコミュニケーション:笑顔や相槌、傾聴の姿勢など、人としての魅力。
  • 会社のことをよく知っている:会社のビジョンや事業計画、カルチャーについて、自分の言葉で語れること。

たとえ選考でお見送りになった候補者であっても、「また機会があれば受けてみたい」「一緒に働いてみたい」と感じてもらえるような印象を残すことが重要です。そして、もし入社に至る候補者であれば、入社後も部署は異なっても気軽に相談できるような信頼関係を築くことを目指しましょう。

決して、機嫌の悪い気難しい人物が採用面接の場に立つべきではありません。もし現在そのような社員が配置されているのであれば、会社の評判を落とす前に、直ちに配置換えを検討すべきです。

会社のカルチャーを「言語化」する

会社のトップ、あるいは採用案件に影響力のある上役との交流を通じて、肌感覚でその人物を知り、会社の方向性を理解しておくことは不可欠です。

会社のことを知るとは、会社概要だけでなく、現在のホットなビジョン、事業計画、経営課題、そして特にカルチャーについて深く理解していることです。カルチャーについては抽象的な表現ではなく、具体的に「言語化」できるレベルが求められます。

例えば、HPに「自由でフラットな文化」と記載されていても、それをそのまま伝えるだけでは響きません。

【カルチャーの言語化例】

  • 「当社の『自由でフラットな文化』とは、具体的には、部署や役職に関係なく誰もが気軽に意見を言い合えるオープンな会議体系や、週に一度のランチミーティングで役員が社員の提案に耳を傾ける時間があることを指します。私も先日、新サービスの改善提案を役員に直接提案したところ、すぐに具体的な検討に入っていただき、そのスピード感に驚きました。」

このように、具体的な事例を交えて説明することで、候補者はそのカルチャーをよりリアルに感じることができます。面接官自身が、その語るカルチャーを体現しているかどうかが、候補者の信頼を得る上で最も重要な要素となります。


3. 入社意思の確固たる形成:モチベーションアップの鍵

面接官は、候補者を評価するだけでなく、自分自身も候補者から評価されていることを常に意識すべきです。会社のことを明るく、誠実に語れたか、圧迫的な雰囲気を与えなかったか、会社のカルチャーを魅力的に伝えられたか、そして仕事内容に候補者の関心を引き付けられたか。これら全てが、候補者の入社意思を固める上で重要な要素となります。

会社の知名度や規模、事業内容で圧倒的な差別化ができている企業は限られています。多くの採用企業は、同じ業界の競合の中で、似たような事業内容で勝負しています。

スタートアップのHPなどでよく見かける「なんでも手を上げれば挑戦できる文化」や「失敗を恐れないチャレンジスピリット」といった文字情報は、もはやありきたりです。候補者が本当に見ているのは、「その面接官が、文字に書かれたカルチャーを体現しているか」ということです。候補者は「こんな人と働きたいか?」という視点で面接官を見ています。

入社時期について、他社の選考を阻止するような形で急かすのは避けるべきです。候補者が納得して決断できるよう、選考が終わるまで待つ姿勢を見せましょう。今日の転職活動は、数日あるいは数週間のことであり、半年先のような長期の活動ではありません。

候補者のモチベーションを上げる重要な2つの要素

面接の場で候補者のモチベーションを最大限に引き上げるために、以下の2つの要素を意識しましょう。

  1. リアルな「働くイメージ」の提供 候補者は、入社後の具体的な働き方や、どのような課題に直面し、どのように成長できるのかを想像したいと考えています。抽象的な話ではなく、具体的なプロジェクトやチーム体制、日々の業務の流れについて詳しく語りましょう。【具体例】
    • 「現在、当社の開発チームでは、AIを活用した新機能の開発に注力しており、特に〇〇の領域で技術的な課題に直面しています。もし入社されたら、まずはこのプロジェクトにアサインされ、経験豊富な先輩社員と共に、〇〇の技術導入をリードしていただくことを期待しています。開発の進め方としては、アジャイル開発を採用しており、2週間に一度のスプリントレビューで進捗を共有し、毎週金曜日には自由に新しい技術を試す『ハッカソンデー』を設けています。直近では、〇〇さんがご経験されてきた〇〇の知識が、このプロジェクトで大いに役立つと考えています。」
    • 「私たちの営業チームは、単に商品を売るだけでなく、お客様の抱える経営課題を解決するパートナーとして、深く入り込むことを重視しています。最近の成功事例では、ある製造業のお客様に対して、生産ラインの効率化だけでなく、新しい市場開拓のための戦略まで提案し、結果として売上を20%向上させることができました。入社されたら、まずは既存のお客様との関係構築から始めていただき、その後はご自身の裁量で新規開拓にも挑戦していただくことが可能です。」
  2. 未来のキャリアパスの提示 候補者は、入社後のキャリア形成にも強い関心を持っています。当社で働くことで、どのようなスキルが身につき、どのようなキャリアパスを描けるのかを具体的に示しましょう。【具体例】
    • 「弊社では、社員一人ひとりのキャリアプランを尊重しており、毎年一度の目標設定面談とは別に、上長とのキャリア面談を定期的に実施しています。例えば、〇〇さんのようにマーケティングと営業の両方に興味がある方であれば、将来的にはジョブローテーション制度を活用して、営業戦略立案や事業企画といった部署で経験を積むことも可能です。実際に、現在マーケティング部長を務めている〇〇は、元々営業職として入社し、その後自ら希望してマーケティング部門へ異動し、新しいキャリアを築いています。」
    • 「当社では、専門性を深めるだけでなく、マネジメント職へのキャリアアップも積極的に支援しています。入社後〇年でチームリーダー、〇年でマネージャーといった明確なキャリアパスがあり、必要なスキルや知識を習得するための研修プログラムも充実しています。先日、新規事業を立ち上げた〇〇も、入社時はエンジニアでしたが、自らビジネス企画に挑戦し、事業部長として活躍しています。」

最後に:採用面接は「未来への投資」

採用面接は、単に「人を採る」行為ではありません。それは、会社の未来を創るための「投資」です。面接官は、候補者の能力を見極めるだけでなく、当社の価値観を体現し、候補者に「ここで働きたい」と心から思わせる魅力的な存在であるべきです。

プロフェッショナルな視点と深い洞察力、そして戦略的なアプローチをもって採用面接に臨むことで、私たちは真に優秀な人材を惹きつけ、組織の成長を加速させることができます。